建築における「強さ」を考える

(南 啓史/一級建築士、大学非常勤講師、学生)

プロの現場から(某社インタビュー記事より)

 
■プロフィール


●これまでどんなお仕事をしてこられたのでしょう?

建築設計が僕の仕事です。

最初にかかわったのは公共施設でした。
高速道路の料金所や学校・幼稚園のプロジェクトにプレゼンテーションから実施設計まで、アシスタントや担当設計者として参加しました。

その後オフィスや店舗、住宅の設計をしています。
そのほかには図面を取りまとめたり、変わったところではカタログに出てくる空間デザインのコーディネートなんかもしています。

それと、ご縁があって、2007年から大阪工業大学で、今は京都造形芸術大学で非常勤講師もしています。
主に、CADやグラフィックソフトなどパソコンを使ったプレゼンテーション技法の基礎を教えています。

仕事としてはその2本ですが、僕は和歌山大学の大学院の学生でもあります。
月1回程度先生とやり取りをして、論文を書くということになっています。



●建築家を目指すきっかけを教えてください。

子どものころはテストの答案用紙の裏に絵を描いてその絵に”はなまる”をもらうような、そんな野球少年で、大人になったら草野球をするのが夢でした(笑)。

小学校6年のときの先生が『たぶん南君は絵を描く職業に就くと思います』って言いはったんです。
その頃の僕は絵を描く仕事は画家くらいしか知らなかったので、友達に『俺、画家になるらしいわ』って言ってました。
高校で理系を選んだんですが何をしたいかまだ決められずにいたときに友達が「建築学科を受ける」と言い出して、それではじめて「建築」というものを認識したんです。

授業中もマンガを読んでるような生活だったんですけど、「りびんぐゲーム」っていう建築家になるっていうマンガに出合って、「これや!」って思ったんです。
マンガの影響は大きいですね(笑)。

*りびんぐゲーム:ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載されていた漫画。

今、図面を描いているので先生の言ってたことは、ある意味あたってるなって思います。



■建築の魅力


●これまでのお仕事の中でうれしかったことを教えてください。

学校や幼稚園とかは、地図に載ってるんですね、これはうれしいです。
地図に残る仕事をしてるんやなと思います。

ある案件は、悲しい事件があった学校で、学校にも子どもたちにも残ってしまった「負」の部分を「正」に変えることができ、改めて「建築にはすごい力があるんや」とも思いました。

住宅の仕事では、僕が設計した空間にお客さまが入ったときに「わぁ~」っていう顔が見られるのが一番うれしいです。内心はヒヤヒヤしてるんですけどね。
家を作り終わると僕はさよならですけど、お客さんはそこからスタートっていう真逆の ”点”を共有している、そこも面白いなと思います。



●逆に悔しかったことは?

脱サラして喫茶店をはじめる方の依頼で、喫茶店の内装をやったんですが、半年で閉めはったんです。
僕は店舗をお客さまと一緒に作り上げた自信はあったんですけど、店として機能しなかったんかなとか、その方が生業としてそこで店をやっていけるように作らないといけなかったのに、それが達成できへんかったんかなとか、場所がやっぱり良くなかったんかなって。
その場所を選んだのはその人だったし、僕のせいではないかもしれないけど、僕がそのときアドバイスできていたらと、しこりの残る仕事ですね。

今の僕ならどう対応したかなと考えます。
「ここは喫茶店には向かない」って言えたかも知れないし、場所選びに詳しい人を紹介するとか、できたんじゃないかなって。
依頼されたから「お客様のためにやる」というのはもちろん前提としてあると思うんですが、「自分ならこうします、こうしませんか?」と言える「強さ」を持ちたいし、「強さ」を感じられるものを建築で表現していきたいと思います。



■建築における「強さ」とはなにか?


●「強さ」ですか。南さんのおっしゃる「強さ」ってなにですか?

もっといい言葉があるのかもしれないですけど、今は「強さ」が一番近い言葉かなと思っているんです。構造的な強さではなく、気概のようなものを感じられる建築を目指していかなあかんのちゃうかと思います。

でもその「強さ」って何だろうと、僕自身もまだ考えながら仕事をしていますね。

「モノづくり、コトづくり」って言葉をよく聞きますが、最近はソリューションデザインといわれる「コトづくり」がフューチャーされすぎているような気がしています。
”モノ” と ”コト” がセットになったものが本来デザインだと思うし、それで「強さ」のあるものごとになると思っています。

まず僕のところに仕事の依頼が来て、 “一緒にやろう”という人がいて、やってる最中はお客さまも夢中になって、終わったときにお客さまも含めて関わった人がみんなそれぞれ「俺がやった!」って思える。
それが「強さ」になるのかわからないんですけど、それを目指すデザインなりプロジェクトにしたいなと思います。

例えば、学生の時の理想があって、仕事をはじめると現実とのギャップができてきて、気がつくとお客さまのいいなりのものを作っている状態になっていたりします。仕事の仕方が ”こなす” とか ”まわす” とかっていう状態ですね。
そうじゃなくて、この仕事の場合はこの方が良いと思ったときは「自分ならこうできます!自分に任せてください!」って言える深さみたいな、それも「強さ」と思ってるんです。

僕は子どもの頃から「まじめ」と思われていて、学級代表に指名されたり、大学の部活でキャプテンをやったりしたんですが、実は先頭に立ったりすることはあまり得意ではないんです。でも、挑戦してみようと思いました。そういうことも「強さ」につながると思っています。



●大学で講師をされているということですが、どういう授業をされるのでしょう?

ワークショップでは「1坪でできること」というのをやっています。

「1坪何円(いくら)」って耳にはするけど、実際に一坪の広さを体験したことがない人が多いんです。
だから実際に地面に線を引いて「これが1坪ですよ」と見てもらいます。
そうすると1坪を「意外と広い」という人と「狭い」と感じる人がいます。個人の体の大きさや生活している環境で感じ方が違うことにそこで気づけるんですね。
それと一緒に体のサイズを測ってもらいます。両手を広げたときの長さとかひざまでの高さとか。空間を自分の体でイメージできるようになります。

どうしてそういうことをしているかというと、今はインターネットにたくさん画像があがっているので、それをパッチーワークみたいに切り貼りすると、素人でもなんとなくデザインらしきものができてしまいます。
でもそこから2次元や3次元の図面が描けるかというと今の学生たちは難しいんです。イメージパースらしきものは描けるけど、図面に起こせない。具現化ができない。あちこちつじつまがあってこない。それは「弱さ(脆さ)」だと思うんです。
どんなにCADやCGをうまく扱えても、空間全体をイメージして図面を描く力や、“もの”をしっかり作る「強さ」である“力”がなければ、いい設計者とはいえません。

僕自身も経験が足りないと思っているので、「強さ」を身につけるために勉強をしています。
そして、学生にも予感したものを実感に変えていくことが大切で、それがデザインだということを伝えていきたいです。
 

▼入居時にリノベーションした南氏の作品でもあるご自宅(マンション)。今回はこちらでお話をうかがいました。

「学生の頃からジョージ・ナカシマの建築やデザインが好きで、彼のデザインしたウォールナットの家具が合うようにデザインしました。」
 

「ここで景色を愛でるのは(立地的に)無理と思ったので、西向きのベランダには1枚の大きなスクリーンと意識できるようにカーテンではなく障子を入れました。」
 

「障子の外には間接照明を入れてあります。ガラス窓と障子の間に空間を作って断熱効果の実験も兼ねたりとか、いろいろ仕込んであります。」
 

「今は子どもがいますが、入居したときは夫婦二人。”大人の和”の雰囲気を取り入れました。」
 

「この柱は、3方向からの扉を受けるために必要ですが、それ以上に大黒柱っぽいものを作りたかったんです。子どものために”柱のキズ”を残したかったのも理由のひとつです。」